【music】N響・首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの武満徹に寄りそうスタンス



連載・music パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団/マウリツィオ・ポリーニ
高坂はる香 音楽ライター


“自然”な繋がりを聴き比べる

NHK交響楽団と首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、2~3月にかけて、3年ぶりとなるヨーロッパツアーを行った。新型コロナウイルスの猛威でヨーロッパ各地が大混乱になる前に、滑り込みで全日程を完了。7ヵ国9都市での公演はいずれも高く評価された。このツアーのプログラムで冒頭に置かれていたのは、日本が世界に誇る作曲家、武満徹の〈ハウ・スロー・ザ・ウィンド〉だった。

そして武満の生誕90年にあたる今年、ヤルヴィがかねて望んでいた武満作品によるアルバムがリリースされた。もちろん〈ハウ・スロー・ザ・ウィンド〉も収録されている。

グローバル化の時代とはいえ、各国のオーケストラにはお家芸といえる得意なレパートリーがある。その意味で、ドイツの楽団がベートーヴェンを、フランスの楽団がドビュッシーを演奏するときのように、やはり日本の楽団が武満作品に取り組む際の自然さは特別だ。そのうえN響は武満作品の演奏経験が豊富。ヤルヴィも「彼らは武満の音楽への親和性を持っている」と話す。

武満の出世作〈弦楽のためのレクイエム〉では、優れた弦楽器セクションがシルクのようになめらかかつ明晰な音で、神秘的な空気を創る。〈ア・ウェイ・ア・ローンⅡ〉のフランス音楽を思わせるハーモニーは、虹色の光を放つ。

〈ノスタルジア―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に―〉〈遠い呼び声の彼方へ!〉にはソリストとして諏訪内晶子が参加。武満がヴァイオリン・ソロに託した感情表現を、クリーンな音で響かせる。

ヤルヴィは今回、文献や楽譜の研究に加え、武満の娘である眞樹さんから話を聞いたことで、武満について「温かみのある人間性という、もう一つ別の次元での理解を深めた」という。ミステリアスな響きにあふれながら、血の通った感情、ノスタルジックな風景が強く感じられるのは、そんなヤルヴィの武満に寄りそうスタンスによるのかもしれない。


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