ニュース

NHK Symphony Orchestra 

24.12.2021

Photo credits: Lorraine Wauters, Eduardus Lee






NHK交響楽団の首席指揮者として、最後のシーズンを迎えているパーヴォ・ヤルヴィ。2015年の就任以来、7年にわたり120を超える公演をN響とともにつくりあげました。2017年と2020年にはヨーロッパ・ツアーを行い、N響の名を世界に知らしめました。CD録音も積極的に行い、10枚目となるアルバムを2021年9月にリリース。首席指揮者としての7年間を振り返りながら、N響にもたらした影響や貢献について、またN響と築いた関係性について語りました。

 

─2020年3月、2度目のN響ヨーロッパ・ツアーを成功裡に終えた直後に、世界を未曾有のパンデミックが襲い、ツアーの成果とより堅固になったN響との絆を日本の聴衆に示すことが叶わなくなってしまいました。やっと来日公演が実現したのは2021年6月のことで、1年3か月ぶりの再会は熱狂的に聴衆に迎えられました。熱烈なカーテンコールに何度も応えてらっしゃいましたね。



やっと叶ったN響と日本の聴衆との再会は、感極まるすばらしい経験となりました。首席指揮者として、2週間の隔離期間があろうともN響に戻らなければならないと決意しましたが、それは正しい判断でした。再会したN響は、士気が高く、いいコンディションにありましたし、非常にインパクトのあるおもしろいプログラムを提供することができました。そして、N響とはこの7年をかけて、確かで緊密な関係が醸成されたと感じることができました。一緒に確固たるものを築き上げてきたと実感しています。

 


─7年前の首席指揮者就任の際には「私たちは力を合わせて特別なものを見つけることができるでしょう」と抱負を語っていらっしゃいましたね。N響に対して自分が貢献したいと語った点はどの程度叶えられ、思い描いた目標はどのくらい達成することができたのでしょうか?




N響を初めて指揮した2002年の時点で、実にすばらしいオーケストラだとわかりました。N響はすでにアジアでは伝説的な存在で、音楽愛好家のなかではよく知られていましたしね。しかしオーケストラは芸術に携わる以上、現状に甘んじるのではなく、さらに高次元へと歩み続ける務めがあると私は考えています。N響の首席指揮者就任を決意したのは、その道を共に歩みたいと考えたからなのです。そのために、いかに楽員にインスピレーションを与え、モチベーションを高めていくかが自分の課題であり、求められている役目だと任じていました。
私の考えたN響の次のステージは、すでに確立されていた名声に満足せずに、トップ・オーケストラとして世界に名を知らしめること─これを私のミッションとして掲げたのです。

 

そのミッションを達成するために、3つのアプローチを考えました。そのひとつが高品質なレコーディングをし、それを宣伝媒体として十分に活用すること。レコーディングされた音楽はどこへでも旅をすることができるからです。それはオーケストラの、そして日本の音楽文化の、親善大使としての役割を果たすことができます。幸いにもすでに10枚ものアルバムをリリースすることができ、N響の真価を世界中に届けることができました。これからも定期的なリリースが続く予定ですので、記憶をリマインドしていくことができるでしょう。


                                       



                                       
                                                        (右)2021年9月にリリースされたパーヴォ&N響のア                                                               ルバム『20世紀傑作選4 ストラヴィンスキー:春の祭                                                  典』https://www.sonymusic.co.jp/artist/PaavoJarvi/discography/SICC-19055



2つめはソーシャル・メディアを最大限に利用することです。オーケストラのファン層を拡大し、サポーターを募り、それでいながら一対一の対話をも可能にするために、Facebookや Twitter、Instagramといった基本的なツールを活用することを提言しました。私自身の経験を生かして、活発な発信をすることができ、世界中の音楽ファンとつながることが可能になりました。

実をいうとコンサートをもっともっと世界に向けて配信してはどうかとプランニングしたのですが、日本には特有の権利上の制約や制限があり断念しました。これから解決すべき大きな課題ではないかと思います。

 

そして最後の大事な手段が外国公演です。これまでに行なった2017年と2020年の2度のヨーロッパ・ツアーは大成功を遂げ、N響の世界的な知名度を上げられたと自負しています。「2017年のロイヤル・フェスティヴァル・ホールでの演奏は今でも覚えている」と、イギリスでは音楽ファンの口にしばしば上るくらいです。ウィーン、ベルリン、パリなど、コンサートを行なったすべての音楽都市で強い印象を与えることができ、最高の評価をいただきました。
とても残念なことにパンデミックの影響で、昨年は予定していた重要な外国公演を2つも断念しなければならず、評判をさらに高めるための機会を失ってしまいました。世界のトップ・オーケストラとして認められるためには、継続的に注目を集めてその力を証明し続けなければなりません。それはこれからの活動にかかっていると思います。




                                        
        N響ヨーロッパ公演2020 アムステルダム公演(2020年3月2日、コンセルトヘボウ)


─この7年間でN響にもたらされた変化としては、レパートリーの広がりが挙げられます。首席指揮者就任のおりにN響の響きの特性とドイツ音楽の伝統を見てとり、R. シュトラウスやマーラー、ブルックナーにまず集中的に取り組まれましたね。そこへ独自の色彩が次々に加えられていきました。ニルセン、シベリウス、グリーグなどの北欧音楽や、ペルトやトゥールといった故郷エストニアの作曲家の作品、子どものころから親しんだというショスタコーヴィチやプロコフィエフ、ラフマニノフ、そしてストラヴィンスキーといった20世紀のロシア音楽、こうした幅広い多彩なレパートリーを展開することでN響の新しい魅力を聴衆に見せてくれました。



私が声を大にして言いたいことは、このオーケストラには限界がないということです。お世辞ではなく、本心から世界有数のオーケストラだと思っています。幅広いレパートリーを表現するだけの技術と音楽性を有していると知っているからこそ、多彩な楽曲に積極的に取り組みました。N響の実力は、単に演奏できるというレベルではなく、音楽の本質を表現する力量が十分にあるのです。2021年6月に取り上げたニルセン《交響曲第4番》の質の高さといったら、あれだけ威厳のある、卓越した名技性をもって演奏できるオーケストラは北欧であっても数少ないと思います。
私が幅広いレパートリーを推進したのにはもうひとつ理由があります。21世紀のオーケストラにとって、万人受けのする不朽の名曲だけを演奏するのでは、芸術家としての務めを果たしたとは言えず、もう一段上の高みに到達することは不可能です。それゆえに、コンサートもレコーディングも、ときに芸術的な観点から、チャレンジングな楽曲も取り上げるようにしました。ストラヴィンスキーやバルトーク、シベリウスの、あまり知られていない作品や、メシアン《トゥランガリラ交響曲》、ニルセンといった作曲家の作品がそれです。
結果的にそれは聴衆にとっても良い機会になったのではないでしょうか。ニルセンの交響曲を一度聴けば─それも生演奏で聴けば─その魅力にとりつかれるはずなのです。私の務めは、少しだけ扉を開けて、「どうぞ中を覗いてみてください。楽しい世界が待っているかもしれませんよ」と聴衆を新しい世界に招き入れることだと考えています。そうやって渋々足を踏み入れた人がその作曲家の大ファンになることだってよくあることなのです。

 

─2017年9月にはモーツァルトのオペラ《ドン・ジョヴァンニ》、2018年3月に《ウェスト・サイド・ストーリー》、2018年9月にシベリウス《クレルヴォ》、2019年8月にベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》といった声楽曲も演奏し、聴衆を大いに楽しませました。



声楽曲を演奏することは、オーケストラにとってはより一層の柔軟性が求められるため、成長を促す貴重な経験になったと思います。
探究心を抱くこと、好奇心をもって挑戦することの楽しさに誘導することは、オーケストラにとっても聴衆にとってもいい機会になったと信じています。多種多彩なレパートリーを演奏することで技術や音楽性も向上し、より説得力のある演奏が可能になります。この7年間でN響の柔軟性を高めることには大きく貢献できたのではないかと思います。






       龍角散 presents N響スペシャル モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」(演奏会形               式)(2017年9         月11日、横浜みなとみらいホール)


 ─2022年2月の定期公演はA・Cプログラムにおいてドイツ・ロマン派の集大成をはかり、首席指揮者として最後の指揮台に立つことになるBプログラムは、イギリス&アメリカ・プログラムです。プログラムに込めた思いを、そしてこれからのN響との関係性についてお聞かせください。



挑戦する意欲を持ち、幅広いプログラムを取り上げてきたつもりですが、ドイツ・ロマン派に重きが置かれたことは確かです。それをしっかりと完結させたいという思いでA・Cプログラムは組みました。そしてBプログラムについては、これまでの演奏曲目を調べてN響と一度も演奏していないのがイギリスの音楽だとわかり、そこで少し異質のもので締めくくりたいと考えて、ブリテン、エルガーの作品を選びました。楽曲そのものは異質どころかイギリスを代表する傑出した音楽ばかりです。一番最後のコンサートで新鮮味のある趣向で締めくくるという私なりの挑戦です。
それは、首席指揮者の座を去ったあとにN響との新たな関係性が芽生えるのを期待している証しでもあります。これまでいくつものオーケストラの音楽監督や首席指揮者を務めてきました。その経験から言えることは、そうしたオーケストラは自分にとって特別な存在であり続けるということです。常に繋がっているような、ある種の責任のような、特別な思いを抱き続けます。N響ともきっといつまでもそんな関係が続くにちがいありません。





              N響ヨーロッパ公演2020 ツアーの最終地、ブリュッセルで(2020年3月4日、パ                レ・デ・ボザール)




https://www.nhkso.or.jp/news/20211224.html

Comments

Popular Posts