在京オーケストラ6月レビュー ①NHK交響楽団

Mainichi
08.07.2021


6月に開催された在京オーケストラの演奏会からいくつかピックアップして振り返る。第1弾は首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィがおよそ1年半ぶりに指揮台に立ったNHK交響楽団の6月公演。取材したのは16日の公演。(宮嶋 極)

 さすが首席指揮者というべきであろうか、パーヴォが指揮台に立つとこれほどまでに演奏水準が向上するとは驚きですらあった。メンバー全体にみなぎる気力と緊張感。パーヴォならではの切れ込み鋭い表現の数々に機敏に反応して音楽を紡いでいくメンバーたち。このオーケストラの持てる力が十二分に引き出されているように映った。


 振り返ってみると新型コロナのパンデミックが発生して以降、N響は定期公演を中止して昨年秋から定期に代わる「◎月公演」を毎月3種類のプログラムで開催してきた。コロナ禍における多くの制約の中、実力派の日本人指揮者を軸にこうした時ならではの工夫を凝らしたプログラミングで、充実の演奏会を開催してきたと筆者は認識してきた。ところが、久々のパーヴォ登場でこれまでの演奏で受けた印象を一気に吹き飛ばすがごとくの快演が繰り広げられたのである。久しぶりに〝本物のN響〟を聴けたと感じたのは筆者だけではなかったはずだ。

 1曲目はパーヴォの故郷エストニアの作曲家ペルトの「スンマ」。元々は教会典礼のクレドを歌詞とする合唱曲として作曲されたもので、今回演奏したのは後に作曲家自身が弦楽合奏用に編曲したバージョン。素朴な旋律の奥に深淵(しんえん)な響きが内在する内向的な曲想であるが、オケ全体にピンと張りつめた緊張感と一音たりともおろそかにしない細心の注意が払われていることが伝わってくる演奏に圧倒された。


シベリウスのヴァイオリン協奏曲のソリストは青木尚佳。ソリストとしてN響と共演するのはこれで3回目となるがパーヴォのリードも相まって、彼女も一段突き抜けたような骨太でダイナミックなソロを披露した。オケをグイグイと引っ張るような弾き方はコンマス向き。客席にはN響前ソロ・コンマスの堀正文、現ゲスト・コンマスの白井圭らの姿があったことから、もしかして彼女は次期コンマス候補か? と想像し休憩時にプログラム誌の略歴を確認したところ今シーズンからミュンヘン・フィルのコンマスに就任したとのこと。残念。念のため楽団首脳のひとりに聞いてみたが「来てくださったらうれしいのですが、今のところそうした予定はありません」とのこと。将来、N響に青木のような優秀な女性コンマスが誕生することも期待したい。

 メインのニルセン「不滅」は凄絶(せいぜつ)なまでに研ぎ澄まされた表現が次々と繰り出されていき、終始高い緊張感を維持した一分のスキもない演奏。これまで聴いたこの曲の生演奏の中でも最高レベルと言っても過言ではないだろう。なお、この曲は2組のティンパニが第4楽章ではコンチェルトのように活躍することでも知られているが、1番のパートをN響首席の植松透が、2番を前読響首席の名手、菅原淳が担った。2人の生き生きとした妙技も公演の盛り上がりに華を添えていた。終演後、オケが退場しても当然のごとく拍手は鳴りやまずパーヴォがステージに呼び戻されていた。



公演データ

【NHK交響楽団6月公演】

6月16日(水)19:00 17日(木)19:00 サントリーホール

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

ヴァイオリン:青木尚佳

コンサートマスター:伊藤 亮太郎

アルヴォ・ペルト:スンマ(弦楽合奏版)

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47

ニルセン:交響曲第4番「不滅」Op.29

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