Tuesday, November 29, 2016

【対談】パーヴォ・ヤルヴィ[指揮者]×池辺晋一郎[横浜みなとみらいホール館長|作曲家]


Yokohama Minato Mirai Hall
24/11/2016

ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の芸術監督として「横浜音祭り2016」のクロージングを飾り、そしてNHK交響楽団の首席指揮者として、2月に再び横浜みなとみらいホールに登場するパーヴォ・ヤルヴィさん。
館長の池辺晋一郎との対談をお贈りします。  

大好きなホールです



池辺晋一郎;最初に横浜みなとみらいホールに登場していただいたのは、2006年。ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 とともに行った「ベートーヴェン交響曲全曲演奏会」でした。あれから10年、フランクフルト放送交響楽団(現 hr交響楽団) 、シンシナティ交響楽団、パリ管弦楽団、といろいろなオーケストラといっしょに、ほぼ毎年のように来てくださいました。パーヴォさんにとって横浜みなとみらいホールとはどんなホールでしょうか?




パーヴォ・ヤルヴィPaavo Järvi;お世辞などではなく、本心から日本で最も気に入っているホールです。横浜で生まれた企画、ドイツ・カンマーフィルとのベートーヴェン・チクルスは、あれ以来、世界中をまわりました。そしてhr交響楽団とのブラームス・チクルスもそう。何か大切なことを始めるのにふさわしい場所だと感じています。10年間という年月、ホールのスタッフの方々にはいつもサポートしていただいて、信頼を寄せています。どこか「我が家」のようにも感じるほっとする場所でもあります。

池辺;それは嬉しいですね。今度の11月27日のドイツ・カンマーフィルの公演はあっという間にチケットが予定枚数終了となってしまいました。熱心な横浜の聴衆がどれだけ待ち望んでいたか窺い知れます。

PJ;また特別な場所に戻って来れて、横浜のみなさまとお会いできるのが楽しみです。

池辺;プログラムにシューマンの《歌劇「ゲノフェーファ」序曲》を取り上げてくださり、とても嬉しく思います。ぜひシューマンのオーケストラ作品を取り上げてほしいと思っていたものですから。以前に、「ブラームスの管弦楽作品が一番優れているとよく言われるが、シューマンも劣らず素晴らしいと思う」とおっしゃったことがあって、共感していたのです。

PJ;そうです、シューマンは大好きな作曲家で、彼の管弦楽曲は軽んじられることがあることを残念に感じていたものですから、今回は喜んで取り上げたのです。

池辺;同感ですね。《4本のホルンと管弦楽のためのコンチェルトシュテュック》、《序奏とアレグロ・アパッショナート》などシューマンのオーケストレーションは非常に素晴らしいのに、あまり演奏される機会がありませんよね。ぜひこれからもこうした名曲を取り上げていってほしいです。

オーケストラの個性と向き合う

池辺;いろいろなオーケストラといっしょに来てくださいましたが、指揮者の立場からそれぞれのオーケストラの性格はどのように把握していらっしゃるのですか?

PJ;それぞれ成り立ちと特徴が違っています。ドイツ・カンマーフィルは私にとって特例とも言える存在です。完全に民主的に自主運営されており、メンバーひとりひとりがオーケストラの経営者なのです。組合もなく、社会保障もありません。演奏曲目、指揮者、プロジェクトの決定権を持っていますが、その決定に責任を負わねばなりません。単なる好き嫌いで曲目を選ぶことはできないのです。オーケストラがいかに生き残るか、ということに意識的です。それが演奏にも反映され、リハーサルも常に真剣そのもので、どういう演奏をしたらいいか、ひとりひとり意見をはっきりと言い、真摯に向き合います。まるで室内楽のリハーサルのように全員が発言します。収益性を常に意識して取り組んでいますから、オーケストラの個性や利点もよく認識しており、ベートーヴェンなどの演奏法に長けています。

池辺;なるほど、責任も伴う自主運営なんですね。そのことにパーヴォさんも共感していらっしゃる。では同じドイツのもうひとつのオーケストラ、hr交響楽団にはどんな特徴がありますか?

PJ;伝統的な構造を持っていて、団員は放送局の職員であり、オーケストラは税金で運営されています。団員たちはコミュニケーションを取るのが得意。放送オーケストラとしての任務のために定期演奏会を行っており、レパートリーには柔軟性があって、後期ロマン派をメインに扱いながらも、現代音楽でもバロックでもこなします。録音に慣れており、精緻で正確な演奏をして、アンサンブルが見事です。

N響との絆

池辺;それはN響と似ている点もありますね?では首席指揮者に就任されて2年目のN響とはどう関わっていらっしゃるのですか?



PJ;今日は、ラフマニノフの交響曲第3番のリハーサルを行ってきたのですが、素晴らしかったです。奥深い響きで、情感が豊かで、美しい色彩のニュアンスに満ちています。初めて客演したのは10年以上前ですが、音楽に対する真摯な態度、クリエイティブでありながらも真面目に取り組む姿勢にまず驚かされました。今でも感心しています。偉大なオーケストラはそれぞれの個性を自ら認識していますから、それによく耳を傾けていっしょにどんな音楽がつくれるのかを考えながら向き合っています。

池辺; 2月には「N響・横浜スペシャル」と銘打った公演で、そのN響とともに演奏してくださいますね。マーラー《交響曲第6番「悲劇的」》を取り上げた理由はなんでしょう?

PJ; 首席指揮者になって2年目にして、気がつくと第1番、2番、3番、8番、とマーラー・チクルスのようにマーラーの交響曲を演奏してきました。私自身は子どもの頃からマーラーの虜でしたし、オーケストラもマーラーを得意としていることがすぐにわかりましたので、マーラーを演奏することでお互いの絆がどんどん深まりました。ですから、《第6番》を取り上げて演奏することで、N響といっしょにマーラーの音楽世界をつくり上げるところをお聴きただきたいと思っています。

また、N響との初めてのヨーロッパツアーが、横浜みなとみらいホールでの公演の直後にスタートします。そのプログラムでもあるのです。マーラーの《第6番》の演奏で、ヨーロッパの聴衆にもN響の精密なアンサンブルの素晴らしさをアピールできるでしょう。

武満の人物像を知りたい

池辺;マーラーに組み合わせるのは武満徹の《弦楽のためのレクイエム》ですね。武満作品はこれまでにも演奏されていますか?

PJ;ええ、2016年9月の定期公演で2曲を演奏しました。とても難しい複雑な音楽ですが、素晴らしい楽曲ばかりですね。マーラーの「悲劇的」の前に武満さんの「レクイエム」を演奏するのは、関連性が感じられるふさわしい選曲だと思っています。

池辺;私は若いころに武満さんのアシスタントとして、すぐそばでどんなふうに作曲をするのかをつぶさに見ていました。誰よりも作曲家としての武満さんの素顔を知っている人間でしょうね。

PJ;先日、お嬢さんの真樹さんと対談する機会があり、そうお聞きしたので、ぜひ詳しくお話を伺いたいと思っていました。



池辺;そうでしたか。それはとても嬉しいですね。真樹さんからもどんどん武満さんの実像を話してほしいと頼まれています。私も、亡くなって20年たって世の中が武満さんのことを神格化している風潮が気になっているのです。

PJ;武満作品は今後もミニシリーズとして取り上げていこうと構想していますから、武満さんのお人柄について、ぜひ機会を改めてじっくりお伺いしたいです。

池辺;それはぜひ実現しましょう。

祖国エストニアのこと

池辺;パーヴォさんはエストニアのご出身ですね。お父様は有名な指揮者のネーメ・ヤルヴィさんでいらして、妹さんも弟さんも音楽家として活躍してらっしゃる。エストニアにいらしたころはどのような家庭環境でしたか?幼い頃はご兄弟間にライバル意識はあったのですか?

PJ;父はとても包容力があり、温かい人柄でした。一方、音楽に対する情熱とエネルギーはとても激しいものでした。父は私たちに何かを強制するようなことは一切ありませんでした。妹のマーリカ(フルート奏者)、弟のクリスチャン(指揮者)、3人の兄弟それぞれが音楽家になったのは、父の音楽への情熱を間近に見て、父がそれだけのエネルギーを注ぐ音楽家になりたいと自然に思えたからです。性格も年齢も違うので兄弟同士で競うようなことはまるでなかったですよ。

池辺;素晴らしいご家庭だったのですね。ところで、現在のエストニアの音楽事情について教えていただけませんか?再来年(2018年)、私の合唱作品を演奏するコンサートがあるためにエストニアを初めて訪問することになったのです。

PJ;ソ連崩壊から十数年たち、まったく様相が変わりました。かつてはロシアの影響が強く、演奏家もモスクワかキエフにしか留学できなかったのですが、ロンドンでもパリでも好きなところで勉強できるようになり、流派や師事する先生も自由に選べるようになりました。特に管楽器の分野に素晴らしい若手が出てきています。合唱は伝統的に盛んです。最近になり3つも新しいコンサートホールができ、4つ目が首都タリンに完成します。私もパルヌ音楽祭を創設し、エストニア祝祭管弦楽団というオーケストラを作りました。エストニアに優れた音楽家を集めてしっかりとしたネットワークを作るのが目的です。小さい国ですから政府は芸術がアイデンティティの確立に役立つと認識しており、芸術支援に力を注いでいます。ですから音楽を取り巻く環境は良好ですよ。

池辺;それは安心しました。パーヴォさんの母国エストニアを訪れるのがとても楽しみです。そしてパーヴォさんがエストニアのオーケストラを日本で指揮するのをぜひ聴きたいですね。

N響との未来像

池辺;さて、これからのN響との未来像は、そして日本での活動はどうなっていきそうですか?

PJ;光栄なことに、N響の首席指揮者の任期が2021年まで延長になりました。日本はもうすでに私の音楽人生にとって主要な活動の場になっています。

池辺;ぜひずっと日本を活動拠点の一つに、そしてもちろん世界中でのさらなる活躍を期待しています。



※編集部注;この対談は2016年9月28日に行われました。

http://www.yaf.or.jp/mmh/blog/2016/11/post-5.php

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