Tuesday, February 20, 2018

パーヴォ・ヤルヴィ 意気込みを語る ~きっとホール全体が一つの気持ちになれるはず~

bunkamura.co.jp
20.02.2018

1曲1曲単体で演奏しても、キラ星のような名曲ばかりの『ウエスト・サイド・ストーリー』。でも、それをわざわざ演奏会形式で上演するには特別なシークレットがあるのでは?とパーヴォ・ヤルヴィに質問してみた。いわく、「あなたが指揮をしていてこの作品の中核になっているナンバーは何ですか?」と。答えてくれるにしても、たぶんかなり悩んだ末に違いないというこちらの予想はあっさり裏切られ、パーヴォからは「それは“サムウェア”だね」という明快な答が返ってきた。
「君もいうように、この作品は“トゥナイト”“マリア”“アメリカ”……etc.と名曲ぞろいだし、“体育館のダンス”の“マンボ”のように、クラシック音楽だけでなはなく、世界中のあらゆる音楽から影響を受けたレナード・バーンスタインだからこそ作り得た曲ばかりだと思う。でもそんな中でも“サムウェア”は特別なんだよ。人種間だけでなく“クラプキ巡査”に描かれているようにそれ以外の差別や憎しみが蔓延している中にあって、愛し合う2人が幸福に暮らせるどこかが必ずある。いや、そこでは反目し合っていた人間たちもお互いを思いやり仲良く暮らしているという、この物語の究極の理想形があると思うんだ」

 だからなのだろうか、他のナンバーは演じられるキャラクター本人によって歌われるが、“サムウェア”だけはいろんなヴァージョンがある。登場人物ではないソプラノ歌手によって歌われる版、少年が天使のようなボーイソプラノで歌う版……いずれにも共通しているのは、現実ではなくて天上から聞こえてくるがの如く神々しさに満ちていることだ。それもあって、物語の大団円にもこのメロディは効果的に流れてくるのだろう。
「指揮者をやっていると、クラシック音楽しか興味がない人間と思われたりするが、青春時代に『ウエスト・サイド・ストーリー』の洗礼を受けなかった音楽関係者などいないと思うよ。僕自身、もちろん基本にはクラシック音楽の勉強があったけど、ティーンエイジャーの頃はバンドを組んで楽しく活動していたし(笑)。そんな僕にとっても、「これは一体」という驚きが『ウエスト・サイド・ストーリー』にはある。作られてから約70年が経っているなんて信じられないし、今なお自分が指揮をしていてもワクワクするんだよ」

 そのワクワク感が形になって、指揮者もオーケストラの団員もダンサーのように踊ってしまったデュダメルのケースもあるが、パーヴォはあくまでも知的なアプローチを忘れない。
「バーンスタインという人がそういうキチンとした人、というか、スタイリッシュで独特の姿勢を持った人だったんだ。僕たち弟子に対しても厳しいけど、反面とことん自由な魂がある人で、だからこそ『ウエスト・サイド・ストーリー』のような大傑作を生み出せたんだと思う。特別なレコーディングは別にして、これまで人々が聞いてきたのは殆どが、ミュージカルが上演されている狭いオーケストラピットに入る演奏者たちの演奏によるものだよね。それが、晴れて舞台上に上がることによって(笑)、より強烈な印象が残ることは間違いない。しかも世界でも名高い、一流オーケストラの手によるわけだからね」

 確かにパーヴォが語るように、N響のメンバー一人一人も、各々のソリストたちも、多感な時期にきっとこの『ウエスト・サイド・ストーリー』に出会っていたのだろうなと思うと感慨深いものがある。そしてそれは、客席でドキドキしながら聴いている我々も同じなのだが。
「今回のような機会を与えてもらって本当にうれしい。きっとホール全体が一つの気持ちになれるはずだからね」


インタビュー:佐藤友紀(ジャーナリスト)

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_wss/topics/1239.html

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