Tuesday, May 19, 2020

パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Järvi)、NHK交響楽団『武満徹:管弦楽曲集』初の日本人作曲家のレコーディングはヨーロッパ・ツアーでも絶賛された武満徹

Mikiki
15.05.2020
木幡一誠


初の日本人作曲家のレコーディングはヨーロッパ・ツアーでも絶賛された武満徹

 快進撃がとまらない! この言葉が文字どおりにあてはまるパーヴォ・ヤルヴィとN響のコンビだ。彼の故郷エストニアの首都タリンを舞台とする2月22日のコンサートに始まり、3月4日のブリュッセル公演に至るまで欧州主要都市を訪れる楽旅も大成功を収めた。コロナウィルス騒ぎが本格化する前に日本を離れ、その猛威がヨーロッパを襲う頃には帰国を果たすというスケジュールで、世界的な演奏会中止スパイラルに巻き込まれることなくツアーを終えたのは、皮肉抜きに強運と呼ぶしかない。

 彼らの最新アルバムがライヴ収録による武満徹の作品集。収録曲のうち“ハウ・スロー・ザ・ウィンド”と“ア・ウェイ・アローンⅡ”は2016年9月に、諏訪内晶子のソロをフィーチュアした“ノスタルジア──アンドレ・タルコフスキーの追憶に──”と“遠い呼び声の彼方へ!”は2018年2月に、それぞれサントリーホールの定期で取り上げられた。1980年代から90年代にかけて武満が極めた音楽語法を刻印する以上4曲に、初期の傑作“弦楽のためのレクイエム”(2017年2月、於横浜みなとみらいホール)をカップリングするあたりも心憎い。

「N響とのヨーロッパ演奏旅行には2つのプログラムを用意しましたが、その一方は“ハウ・スロー・ザ・ウィンド”で始まるものです。タケミツさんの個性が外国の聴衆にも理解しやすく、書式自体は複雑な面を備えながら決して難解に響かない作品となれば、オープニングに最適でしょう。彼が創作活動後期に手がけた管弦楽曲に共通することですが、編成は大きくても楽器の重ね方が繊細で透明度が高い。そして音と音の間が“エア”に満たされています。そんなスコアから立ち上る色彩感に、フランス音楽からの美学的影響も認められるのは確かです。しかしよく指摘されるメシアンとの類似性は表面的な事象に過ぎない。神に帰依するメシアンの宗教的な世界とはまるで立脚点が異なります。タケミツさんで重要なのは自然との関連性であり、それも水や空気のように、常に流動しながら少しずつ姿を変えていくものが音楽の核をなしている……」

 N響の首席指揮者として5期目のシーズンを過ごし、日本との結びつきを年々深めているパーヴォだが、意外にも昨年初めて京都の地を踏んだという。東福寺や茶道の家元を訪れる姿はTVでも流れた。

「良い体験になりました。〈古い〉日本に触れる機会を持つたび、タケミツさんへの理解も深まっていくと実感します。前衛的なものから出発しながら、同時に日本の伝統的な感性に根ざす表現も追求した作曲家が彼でしたからね。今回のCDで1つだけ初期の所産にあたる“レクイエム”は傑作であると同時に、明らかに〈若さ〉も反映されています。同時期の西欧で主流をなしていた先鋭的な技法との共通点も多く、先人でいえばストラヴィンスキーやバルトークの面影ものぞきます。それが後期の作品になると、レイヤーをなして重なる響きの中に和声的な要素が暗示されていくようになる。ほんの数音からなるモチーフを変形ないし発展させながら、やはりメロディックな要素が暗示されたりもします。しかしそれは必ずしも明確な旋律として形をなすのではなく、ある種の〈既視感〉を誘うような趣で……といえばよいでしょうか。そんな音楽に対するレスポンスの速さという点で、N響というオーケストラには作品への順応性と強固なトラディションを感じとれます。彼らの演奏をロジカルかつ有機的な過程に導いていくのが解釈者としての私の務めでもあり、その成果を評価していただければ本望ですね」

 そして1枚のアルバムに華を添えるのが、2曲でソロを弾く諏訪内晶子。「テクストに対する忠実度が高く、あらゆる音符の指示を生かしながら過度な表現に陥らない!」と満腔の敬意を捧げるヴァイオリニストに与えたきめ細かなサポートともども、指揮者パーヴォ・ヤルヴィがN響といそしむ共同作業の機微と、その蜜月ぶりに接してみたい。


パーヴォ・ヤルヴィ (Paavo Järvi)
NHK交響楽団首席指揮者、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン芸術監督、エストニア国立交響楽団芸術顧問。2010年、故国エストニアのペルヌにペルヌ音楽祭を創設。レコーディングにも非常に積極的で、RCA Red Seal、ソニー・クラシカルなどから多数のアルバムが発売されている。父は有名な指揮者ネーメ・ヤルヴィ。


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